Eleven Climber
2009年、山岳会に入会しクライミングを初めた当時、会の先輩から「クライミングをやるからには最低でも5.11aは登れないとね」と言われた。当時は5.11a以上登れるクライマーなんて身近に1人か2人くらいで、イレブンクライマーとして崇められていた。いやホントに。
そもそもが雪山に登りたくて山岳会に入ったので、クライミングをするつもりはなかった。しかし、入門書などを読んでいると、雪山ではロープワークが必修だし、クライミングは上手くなっておいて損はなさそうだ、むしろ基礎として必要なんだなと思うようになった。当時、僕は兵庫県の明石市に住んでいて、いまのようにクライミングジムは多くなかった。1番近いのは王子公園の登山研修所、もう1つはパンプ大阪だった。
なかなか思うようにジムに通えず、そもそも体重が重かったこともありクライミングは上達しなかった。入門書を読んでダイアゴナルやフラッギングというムーブを頭では理解するものの、実際には体が動かなかった。パンプ大阪の薄被りの5.9を登れるようになるまで1年くらいかかった、いや、1年かけても登れてなかったかもしれない。
山岳会に入って1年半後、東京に転勤となった。それを機に結婚し、社宅扱いで大田区のマンションに住むことになった。最寄りのクライミングジムはT-WALL大岡山で、自転車で15分くらいで行けるし、仕事の帰りに行くことも出来た。当時はまだ子どもがいなかったし、転勤したてで仕事にも余裕があったので、半年パスを買って足繁くジムに通った。1週間のうち、平日は2〜3回ジム、週末は岩場か山、という生活だった。当時のT-WALL大岡山の課題は考えさせられる面白いムーブが多く、しつこくトライすることで自然と引出しが増え、才能のない僕もボルダリングで5級、ルートで5.10bくらいは登れるようになってきた。この頃、クライミングを初めて3年目、そろそろ僕も5.11aを登りたいと頑張っていた。
初めて登れた5.11aは湯河原幕岩の「ゼルダ」というボルダーみたいなルートだった。何度もトライしていたらまぐれで核心ホールドが止まり、そのまま完登できてしまったというもの。もちろん嬉しかったが、もう1つ2つくらいは5.11aを登りたいなと思い、次に目標としたのは岡山県は備中の長屋坂にある「スプリング」。これも5.11a。
年末に東京から車で広島に帰省する途中、車中泊で用瀬小屋に泊まり、極寒の長屋坂を訪れた。T-WALLと湯河原幕岩に通ったおかげで、何度目かのトライの後、RPすることができた。初心者の頃に一度だけ下部を触って太刀打ちできないルートであっただけに、完登したときは心底嬉しかった。以下、当時(2011-12-30)の日記から抜粋:
- 1トライ目。3テンでトップアウト。下部ハングを抜ける所、上部核心の手前、核心抜けた後でそれぞれテンション。前回(2011年1月)に少し触ってみたときは、下部ハングすら越えられなかった。今回はトップアウトできたので、RPできるかも、と期待が膨らむ。
- 2トライ目。1テンでトップアウト。懸案の下部ハングはなんとか抜けられた。核心で滑ってフォールしてしまったが、ムーブはなんとなく掴めた気がする。張った腕を回復させるべく、早めの昼食を摂り、しばらくのんびりする。
- 3トライ目。下部ハングをギリギリで越え、無理矢理レストし、上部核心に臨む。右足の乗り込みが浅く、滑ってしまうがなんとかこらえてフォールせずに済んだ。体勢を整えて再度レスト。もう一度核心へ。右手を引き付け右足を決め、左の浅いカチで耐え右手を伸ばす。左が外れそうでヒヤヒヤしたが、なんとかガバに届いた。やった。RP!
さて、それから7年以上経った今、5.11台は他にも色々と登ったし、アルパインクライミングも多少は行ってきた。まだ、5.12aには届いていない。そろそろ、トゥエルブクライマーに仲間入りしたい。
まったく個人的な感覚だが、トゥエルブ台のルートをコンスタントにレッドポイントできるようになって、アルパインルートが比較的余裕を持って登れるようになったような気がする。
増本, 登山研修 Vol. 28, p.11, 2013
という一流アルパインクライマーの言葉を追いかけて。