クライミングの面白さ
今年7月から10月の4ヶ月間ほど、クライミングへのモチベーションが地に落ちてしまい、トレーニングを怠けて体重も増えて登れなくなり、さらにモチベーションが低下するという悪循環に陥っていた。
ちょうど山岳会を退会したタイミングであり、人間関係に疲れた時期だったのと、仕事がけっこう面白くなっていた時期でもあった。
11月後半から「涼しくなってきたしそろそろクライミングでも再開しようかな」と思いボルダリングジムに通い出し、食習慣改善と筋トレによって身体も引締まってきた。ジムや岩場でそこそこ登れるようになると、俄然、クライミングが楽しくなってしまう。身体が持てば毎日でも登りたい。一時期モチベーションが低下していたのが嘘のようだ。
やはりクライミングというのは、ある程度の難易度が登れた方が楽しい。ルートなら5.11a~5.11cあたり、ボルダーなら4級~3級あたりが今の僕の限界なのだけれど、これくらいが登れればだいたいどの岩場にいっても「触れる課題がない」という状況にはならない。一般的なマルチピッチルートであれば無理なく登れるようになる。
モチベーションが下がっていた時期は限界グレードが5.10aくらいになっていたから、短期間で5.11aあたりまで登れるようになった疑似的進歩によっても快感を味わえた。実際に自分の限界を押上げたのではなく、低下していたレベルを戻しただけだけど。
「幸せとは目的に向かう加速度のこと」であると誰かが言っていた。1ヶ月あるいは1年前にできなかったムーブが、今の自分になら無理なくできるというのは、まさに目的への加速度を感じている瞬間であり爽快この上ない。
とはいえ、ジムの課題が1年残ることはほぼ無いから、1年単位でとなると必然的に岩場でしかこのような幸せは噛み締められない。そういう視点で考えると、アクセス問題が発生して岩場に行けなくなることや、チッピングによって既存課題が人為的に壊されてしまうことが、いかにクライマーの幸せにマイナスであるかがよく分かる。この当たりの考えは以前書いた。
僕が通っているジムに平日夜に行くと、1級や初段をトライしている人が沢山いて、鍛え抜かれた無駄のない身体としなやかで力強いムーブに圧倒されてしまい、そのような上級者と一緒に登るのは肩身が狭い。自分などが低レベルの課題を頑張ってなんになるんだろう、と思ってしまうこともある。けれども、自分自身が楽しいと感じることが最重要だし、他人と比較するものでもない。
安全に岩を登るという能力を獲得し、岩を、そして山を、これまでの技術では到達できなかった方法で登る、それらにつながる過程が、クライミングの面白さであると思う。すなわち、身体を鍛えて登れるグレードを上げること、最新のギアを手に入れること、岩場に訪れるために旅行すること、登れそうな岩場がないか調べること、万一に備えてレスキュー技術を身につけること、などなど、クライミングにまつわる全ての活動がクライミングの面白さに含まれている。
ジムでだけ登るよりも岩場へ行った方が面白いし、シングルピッチのルートだけでなくボルダーやマルチピッチも登った方が面白い。岩だけでなく沢や雪や氷も登れた方が面白い。クライマーは何かと忙しい。