【読書感想文】山の天気にだまされるな!

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山の天気にだまされるな!」は、ヤマテンを運営したり雑誌の気象コラムを多数連載したりと人気の猪熊氏の著書です。気象の解説のみならず、登山者がいかに気象情報を活用して登山行動に適用するかという観点で書かれています。

数値予報を行うコンピュータの処理能力向上、そしてスマートフォンと高速通信ネットワークに代表される情報インフラの高度化に伴い、ピンポイント予報や雨雲レーダ情報が手軽に入手できる現代ですが、著者は「目的の山域を2万5千分の1地形図で確認し気象リスクを事前に考える事」と「遭難が多発する気圧配置パターンを覚えて天気図から今後の変化を予想する事」の大切さを強調します。

その理由として、ピンポイント予報の基になっている数値予報は20 kmメッシュで計算しているため山岳地の局所的な地形を十分加味出来ないため、経験や局所的な観測による補正が必要であることを挙げています。特に“登山の際に風下側の(平地の)天気予報を利用することは、絶対にやってはならない”(58ページ)とのことです。

第3章では、低体温症の遭難が多発するときの気圧配置が掲載されています。いずれも、日本列島の東か北西に勢力の強い低気圧が位置し、山岳地の等圧線が密になって強風となるものです。大きな低気圧が山域を通過した後にこそ、低体温症の注意が必要だと著者は述べています。

第5章では、2012年5月に白馬岳で1パーティーの6人全員が低体温症で亡くなった場所・気象条件を例に、気象遭難しないためにパーティーはどう行動すれば良いかについて状況を整理しながら考察を重ねています。結果、大切なポイントは①登山計画はパーティーで最も弱い人を基準に立てる、②事前に引返すポイントを決めておく、③登山中に現地の天気や最新の予報を入手し今後の予想を随時更新する、④疲れ果てて動けなくなるまえに撤退する、と結論付けています。

それでは、事故を起こさないために「安全過ぎる」山行をするのが良いのでしょうか。著者は“登山であるから実力的にギリギリの場所に挑戦したいという気持ちはよくわかるし、そういう冒険心は個人的にすばらしいと思う”(90ページ)と、チャレンジ精神もまた登山になくてはならないものであると理解を示しています。ただ、目論見が一つ外れたらすべて終わりになってはダメで、リスクに対する対策やバックアップ案が極めて大切だということです。なお、“微妙な予報だったらまずは行ってみること。大荒れの天気にならなければ、そんなに天気に神経質にならなくてもいいのでは?と思っている”(69ページ)という考えには、個人的にとても共感を覚えました。

気象知識メイン、遭難事例メインの書籍は多くありますが、この2つを総合させて、登山者がいかに気象情報を活用してどのような行動を心がけるべきかを言及した書籍は少なく、本書は貴重な内容と思います。晴れマークや降水確率として記号化された情報のみに惑わされることなく、気圧配置、季節毎の大局的な傾向、山域の地理的条件も考慮して、山行前や山行中の行動を判断できるようになりたいものです。とは言いつつも「てんきとくらす」の予報は結構当たるので、週末が近づくとついつい見てしまうのですが…。まずは、天気図と空を、毎日眺めるようにしてみます。