甲斐駒ヶ岳 黄蓮谷右俣 (2020-12-26~28)
黄蓮谷右俣。憧れのクラシックルートで今シーズンのアイスクライミング幕開け。新雪とハイマツのコラボラッセルに苦しめられ、甲斐駒ヶ岳山頂着は日没後の19:30となってしまいましたが、総じて最高でした。
メンバー
単独
行程
- 2020-12-25(金)
23:15 高砂市 - 2020-12-26(土) 晴
05:20/06:30 竹宇駒ヶ岳神社駐車場
08:35 笹の平分岐
11:20 五合目小屋跡
11:50 六丈沢下降点
14:00 黄蓮谷(二俣)
14:30 奥千丈ノ滝下(標高1910m) - 2020-12-27(日) 晴
05:00 起床
06:15 出発
07:30 奥千丈ノ滝上
10:45/12:15 奥ノ二俣25m滝
15:40 奥ノ滝右の尾根取付き
19:20 甲斐駒ヶ岳
21:20 七丈小屋テン場 - 2020-12-28(月) 雪のち晴
06:10 起床
07:10 出発
07:55 五合目小屋跡
10:00 笹の平分岐
11:20 竹宇駒ヶ岳神社駐車場
19:30 高砂市
詳細
黒戸尾根(登り)
前夜発で移動し、竹宇駒ヶ岳神社の駐車場に05:20着。道中に備え、途中のコンビニで買った大盛スパゲティを食べておく。
06:30出発。長いながい黒戸尾根も、今の僕は年末年始の休暇に突入した高揚感に満ちているので、恐れるに足らずだ。刃渡り沢、五合目小屋跡と順調に進む。五合目から黄蓮谷に下ろうかなと思っていたけれど、近年は六丈沢を下るのが主流のようで、こちらの方が登り返しも少なくて済むので、六丈沢から下ることにする。
六丈沢・二俣
六丈沢へ下降する目印となる石碑に11:50到着。ハーネス、アイゼンを装着し、黄蓮谷を目指して六丈沢右岸をひたすら下る。うっすら残っているトレースを追うものの、途中でよく分からなくなり、崖上に出てしまう。懸垂下降は避け、右岸の尾根へ藪を漕ぎ、さらに下る。
そろそろ二俣というあたりで、噂に聞くスラブのトラバース地点が見える。スラブは怖そうなので、少し下の氷床から左岸へ渡り、やや悪い草付を登り返してトラバースし、二俣に到着。この時点で14:00。
甲斐駒ヶ岳山頂へ突き上げるクラシックなアルパインアイスルート「黄蓮谷右俣」の存在を、僕は10年前に書籍を読んで知った。いつか行きたいルートの筆頭として、いつも頭の片隅に黄蓮谷があった。ゲレンデでのアイスクライミングや雪山の経験を積み、そろそろ行けるかなと最初に計画したのは2015年だった。しかし、予定していた日程と氷結状況が合わず断念。その後何度か計画したものの、気象条件やメンバーの都合など、どうにも条件が合わず機会に恵まれずにいた。今回、2020年末にして、ようやくここまで来ることができた。
二俣から右俣へ、ナメ滝にアックスを振る。ここ1ヶ月、毎朝アックス素振りをしていた。おかげで、アックスのブレードがブレずにスカッと氷瀑に刺さり、大変気持ちがいい。
今日は奥千丈ノ滝の手前か、滝を越えた辺りでテント泊の予定。適地を探しながら詰めていくと、水流が氷の下からコポコポと聞こえる辺りで足がハマる。氷を踏み抜いてしまった。1度ならず2度、3度と踏み抜き、3度目はしっかり右の足首まで浸かって、じんわりと濡れた感じがする。という訳で、平坦地を均してテントを立てる。幸いにも、水流から直接水を汲めるので、給水には苦労しない。
濡れた靴下を予備に替えてテントシューズを履き、お湯を沸かしてアルファ米の夕食。インソールを外して懐で温める。1週間の仕事の疲れと、昨晩の睡眠不足もあり、早々とシュラフにくるまり横になる。22時頃に目覚めると、月が明るく壮大な気持ちになる。空腹だったので、スープと行動食を摂り、再び浅い眠りにつく。
奥千丈ノ滝・連瀑帯・奥ノ二俣
2日目、05:00起床。新調したシングルウォールテントVB-21は結露が少なく、大きさも丁度よく、かなり快適。スープとバターロールの簡単な朝食を済ませ、お湯を沸かしてテルモスに詰める。
夜が白んできたころに行動を開始。幕営地から少し登ると奥千丈ノ滝だ。階段状に見えるので、フリーソロで取り付く。かなり慎重に、必要以上にアックスを付きたてながら、無事に突破。上部には凍結した氷の回廊が延々と続いている。
氷の回廊に感動したのもつかの間、中途半端な傾斜なのでアックスが振りづらく、つま先立ちが続いているのでふくらはぎが攣りそうだ。200mとされる奥千丈ノ滝のさらに上にもずっとナメ滝が続いている。
疲れてきたので、いったん左岸の樹林帯から巻く。再びトラバースして谷に戻るとちょっと悪い部分があり、そこにはお助けスリングが垂れている。皆、だいたい同じような行動になるのだろうか。
10:45、標高2450mあたりで30弱の滝に出くわす。これが奥ノ滝かなと思う(実際には、奥ノ二俣25m滝だったようだ)。傾斜はさほどではないものの、荷物を背負ってのフリーソロはしんどくなってきたので、この山行で初めてロープを出す。
何度も練習したロープソロシステムをセットし、サブザックに50mロープを入れて登る。先ほどまで背負っていた20kg弱のザックに比べれば、空身で登っているようなものだ。軽快に登れてなんとも楽しい。50mロープいっぱい伸ばして灌木で終了点を設置。懸垂下降してスクリューを回収し、しんどい登り返しを終えると、登攀開始から1.5時間が経過していた。ソロシステムは時間がかかる。
右の尾根・山頂
先の滝を越えた後は、足首からスネくらいまでのラッセルで沢を詰める。左手に大きな滝があるけれど、ベルグラ状に見える。この辺りでルートがいまいち分からなくなり、行ったり来たりしていると後続の3人パーティーの方々が追いついて来られた。「ラッセルありがとうございました」との言葉をいただく。七条小屋を03:30に出発されたとのこと。彼らも黄蓮谷右俣は初めて、僕も初めてなので、相談しながら、ガイドブックに記述のある「右の尾根」に取りつくことにする。
3人パーティーの方々と先頭を交代しながら、尾根に乗って甲斐駒ヶ岳の山頂を目指す。標高差は300m程。ハイマツに新雪が乗っていてなかなかに悪い。普通ならロープを出したくなるような急斜面も何箇所かある。日が傾き、気温も下がり、グローブが凍って指が冷たい。晴れていて月が明るく、風もないことが幸いだ。
ラッセル途中で夜の帳が下りる。眼下には八ヶ岳の麓の街灯りが見える。ライフラインが整った下界とは隔絶された標高2700mの山中で、僕はハイマツの枝に絡まれながら、5歩登っては休憩、というスローペースで山頂を目指す。
本当に山頂まで着けるのだろうか。心細くなってきたころ、3人パーティーの1人が先頭を代わってくれて、ガンガンと高度を上げてくれる。遠くに輝くヘッデンが頼もしい。「あとちょっとー」の言葉に励まされる。そろそろ稜線に付きそうだ。「登山道!」の声。鋸岳から甲斐駒ヶ岳への縦走路に出た。ついに。
登山道とはかくも歩きやすいものだったか。甲斐駒ヶ岳山頂に到着すると19:20。遅くなってしまった。携帯電話を取り出し、家族に、無事一般道に出たことを伝えておく。
2日目に下山する計画でいたものの、疲れで足元がおぼつかない。ずっと前から真っ暗だし。無理せず予備日を使って、七丈小屋のテン場でもう1泊することにする。21:20着。テントを張って潜り込み、ザックに入れておいたつららを溶かし、お湯にして飲む。朝から余り飲み物を口にしていなかったので、白湯が五臓六腑に染み渡る。行動食を少し食べてスリーシーズン用シュラフに包まり、相変わらず寒いけれど、横になって体力の回復を待つ。
黒戸尾根(下り)
3日目、6:10起床、07:10出発。夜間の積雪は10cm程。昨日は到着が遅かったのでテント泊の受付ができず、当日の受付は12:00以降とのことなので、小屋横にあるトイレの料金箱にテント泊料金の千円を支払っておく。
未明から朝にかけての雪で、登山道にうっすらと積雪があるので、所どころにあるハシゴや鎖場を緊張して通過し、長い尾根を無心で下る。太ももに力が入らず、何度か尻もちをつきつつ、七丈小屋から4時間強で竹宇駒ヶ岳神社に下山。
麓のホテルに滞在し小淵沢を観光していた妻子が、神社まで迎えに来てくれて、2人の顔をみると、心底ほっとした。今年の最後、素晴らしい山行ができたことに感謝。
感想
黄蓮谷は登るタイミングが難しい。早すぎると凍っていないし、遅すぎると雪で埋まってしまう。ベストなタイミングは毎年どこかしらあるけれど、自分の都合とパートナーの都合がそのタイミングに合うとは限らない。今回、単独で望むことによって、山のコンディションと自分の都合のみを考えればよくなったため、なかなかよい時期に登ることができたと思う。
最後の詰めでは、たまたま同じルートを登っていた3人パーティーの方々とご一緒できたので、心強かった。自分以外の人間が、同じルートにいるということは、それだけでありがたい。
単独行のメリットとデメリット、それぞれある。なにはともあれ、自分なりに全力を尽くせて、無事に下山できたので良かった。それにしても、黄蓮谷は体力勝負だった。二俣までアプローチするだけで7時間を要したし、黄蓮谷後半で谷から尾根に取付いて山頂に抜けるまで4時間弱かかった。八ヶ岳などとは一線を画する山域だった。
装備
テント泊装備一式、ヘルメット、ハーネス、アイスアックス(ノミック)、アイゼン(リンクス)、シングルロープ50m×1、アイススクリュー7本、クイックドロー6本、グリグリ、ベーシック、ルベルソ、チェストハーネス、スリング類、カラビナ類
備忘録
- 二俣から奥千丈ノ滝までは氷が薄い箇所が多く、踏み抜きが多発した。コポコポ音がする部分はなるべく避けるのが無難。
- 奥ノ滝は思ったよりも(下から見上げて)左側にあった。(下から見上げて)右の尾根に登らず、沢どおしに登る方が良さそう。