戸台川(2024-01-05~06)
山頂に向かう手段として凍った滝を登る。そんなアイスクライミングに憧れる。3年前の冬に登った黄連谷右俣の印象が強く残っている。また、あのような山行をしたいと思い、甲斐駒ヶ岳西面の戸台川から稜線に突き抜けるという駒津沢を目指した。目指しはしたけれど、結果的にはアプローチ途中で敗退し、帰りがけに南アルプス林道沿のちょっとした氷瀑を登っただけに終わった。
メンバー
崎間(単独)
行程
- 2024-01-05(金)晴
03:30 小黒川PA
05:30 仙流荘駐車場
06:50 戸台登山口
09:55 角兵衛沢渡渉点
10:20 穴熊沢渡渉点
10:55 丹渓山荘跡
12:50 七条ノ滝沢出合
13:05 1715m付近
14:30 丹渓山荘跡
16:20 丹渓新道登山口付近(幕営) - 2024-01-06(土)晴
05:30 起床
06:50 幕営地発
07:15 歌宿
07:35/09:25 小百合沢F3
11:40 戸台大橋
12:50 仙流荘駐車場
詳細
1日目:戸台川上流域
戸台河原駐車場は2023年の大雨で利用できなくなっているため、仙流荘横の登山者用駐車場からの歩きとなる。5時半発。暖冬とはいえ関西に比べると伊那の朝は冷え込む。1時間強で戸台登山口に着き、ポストに(一応)登山届を出しておく。登山届は、計画を書くことと、家族に計画を知らせることに実質的な意義がある。
しばらくは河原歩き。ときおり渡渉。微妙に雪が乗っていて歩きにくい。途中で陽光が差し、体があたたまる。1億4960万km離れた太陽の核融合反応エネルギーはなんと膨大なことか。それにしても、アイスクライミング装備とテント泊装備を詰め込んだ23kgもあるザックと、自分自身の体力のなさが恨めしい。丹渓山荘跡まで4時間もかかってしまった。
丹渓山荘跡からは、登山道を離れて戸台川本谷を登る。戸台川本谷の川床は、ごろごろとした石にふかふかの雪が5cmくらい積もっていて非常に歩きにくい。地形図には六合目石室へと続く登山道の破線があるものの、それが現地のどこなのか皆目検討がつかない。メンテナンスもされてなさそうだし、沢沿いの道なので崩壊してしまっているのだろうか。
樹林帯や川床と行ったり来たりしながらどうにか高度を稼ぐ。高度が上がるにつれ、川床が部分的に氷結したてきた。薄く水平に張った氷の上にうっすらと雪が乗っていて、足を置いて体重をかけるとバリンと踏み抜いて50cmほど落ちた。よくできた落とし穴のようだ。たまりかねて、ザックをデポし空身で上流を偵察に行く。
右岸から七条ノ滝沢と出合う。七条ノ滝らしき氷瀑が見えるけれど、全然繋がっていない。その様を見て、これ以上進んでも無駄足なのではと思い始める。
河原の石をマントリングしながら、3回くらい「もう帰ろうかな」と思いつつも「せめて五条ノ滝をひと目見てからにしよう」と思い直して進んでいた。当初の目当てである駒津沢は、五丈ノ滝を越えた所にある。
しかし、途中のちょっとした釜を巻くのが微妙に悪く、越えたとしても帰りに苦労しそうだし、滑って水に落ちて濡れたり怪我したりすれば、携帯電話の電波が届かないこの場所では進退窮まってしまうので、これ以上進むのはやめて敗退を決める。
丹渓山荘跡に戻ると14時半。このまま戸台川を引き返せば、駐車場まで帰れなくもない。しかしテント泊装備とアイスクライミング装備を一式担いで、何もせずに戻るのもあんまりではないか。そういえば、以前同じ時期に来たとき、南アルプス林道沿いに氷瀑があるのを見たことがある。そこに行けばアイスクライミングができるかもしれない。
ということで、丹渓新道から林道へ300m程登る。先程苦労した戸台川本谷と違って、登山道というのは歩きやすい。テープも適所に付けられており感謝。歩きやすいけれど荷物はやっぱり重い。重さが腰にくる。早くテントの中で横になりたいなと思いながら、休み休み登る。林道に抜けると16:20。そろそろ日暮れなので、平坦地で幕営。
テントの中で靴を脱いでテントシューズに履き替える。気温は-5℃くらい。テルモスのお湯を飲み、チョコバーやペンシルカルパスをかじって落ち着く。夕食のカップうどん(中身だけを取り出して持参)を食べ、シュラフの中で体を伸ばしているといつの間にか眠ってしまった。
2日目:小百合沢F3
今日は南アルプス林道を歩いて下山、あわよくは途中でアイスクライミングというまったり計画に変更となったので、特に急ぐこともなく5時半起床。スープとチョコバーとコーヒーの朝食を摂り、雪を溶かして今日行動する分のお湯をつくっておく。夜が白むのを待ってテントを撤収し06:50出発。
林道からは鋸岳や戸台川本谷が見えるので、ときどき振り返りながら氷瀑がないかを確認する。しかし遠目には全然よくわからない。30分程歩くと歌宿バス停の広場。以前(2017年1月上旬、2018年12月下旬)は、この上部にブルーアイスが見えていたのだけど、今回は無いようだ。
まあ仕方ないかと思いさらに林道を進むと、上ニゴリ沢の上流あたりで林道の側壁が凍っていた(下山後に調べたら小百合沢のF3のようだ)。
やっと今シーズン初のアイスクライミングにありつける。正直、もう今日は下山モードだったのだけど、ハーネスを身に着け、アイゼンを装着するとクライミングをするぞという気持ちになる。氷瀑の根本にスクリュー2本で支点をつくり、いつものようにロープソロの準備をする。ノミックを持ち、いざクライミング開始。
アックスを振り下ろしてスカっと氷に突き立てられると気持ちがいい。登ろうとするとロープの流れがやや悪い。ロープが湿気で膨らんでいるのか表面が凍って毛羽立っているのか、グリグリの流れが悪い。シングルロープよりもダブルロープの方が、アイスでのロープソロには適しているのかもしれない。久々のアイスなので過剰にスクリューをセットしつつ完登。8m程。灌木にロープをフィックスし、トップロープ状態で3回登った。
アイスクライミングの感覚を思い出せて満足したので撤収。林道を少し進んだ所に、フェンス越に氷瀑がある。これが上ニゴリ沢F2らしい。上部がどうなっているか分からないけれど、見える範囲では先程登った小百合沢F3よりも寝ていたし発達もイマイチっぽかったので、ちょっと気なりつつも通過して下山。
あとはもう無心で林道を下る。ショートカットのため、戸台大橋より少し上部、地形図に登山道の破線が付いている踏み跡をたどることにする。以前間違えた道である。今回はGPSを睨みながら歩いているので間違えないはず。しばらくトラバースすると昭和初期と思われる廃車と、その奥に廃屋が佇んでいるエモーショナルな光景があった。
そこからドロドロの急斜面を下ると戸台大橋に到着。林道をそのまま歩くよりかは、多少時間が短縮された気はする。さらに1時間強を歩き、仙流荘の駐車場に12:50着。年始の山行を終える。
装備
50mシングルロープ:1、アイススクリュー:10、クイックドロー:6、アルパインクイックドロー:3、グリグリ:1、アッセンダー:1、マイクロトラクション:1、登攀装備一式、食料:2~3日分、テント泊装備一式
備忘録
- 食料を持ちすぎた。カップ麺の中身のみを2食分持参したものの、1食分しか食べなかった。行動食も大量に余った。1泊2日程度なら、お湯とスープと行動食のみでもよさそうだ。そうすれば食器も削れる。
- ブラックダイヤモンドのウルトラライトアイススクリューは非常に良かった。軽いし刺さりもいい。
- 行動食にペンシルカルパス(サラミの細いやつ)を持っていった。甘いものが多くなりがちな中にあって、塩分とタンパク質と脂質が摂れるので重宝した。
感想
下山後に思い返せば、戸台川本谷をもう少し上まで行けたかもしれない。でも頑張れなかった。なんとなく行きたくないな、という心の声に従ったので、それが正しかったのだと思う。単独だと、怪我をして動けなくなったときに携帯電話が通じなければ助けも呼べないので命取りになる。命が惜しいなら単独で山に行くなと言われそうだし、自分でもそう思う。
そのような矛盾を抱えつつも、自分がコントロールできる範囲で、1つの個体として大きな自然にできるだけ近づこうとするのが登山者なのではないかと考えている。危険を冒したい訳ではないし、怪我もしたくない。ただ自分のベストを尽くせる場を求めているだけだ。
今回の山行内容に特筆すべきことや達成できたことは特にない。強いて言えば、自分の実力が目標に見合っていないとを知れたことに、意味があった気がする。また、温かい家族との団らんから離れて寒い場所に単身乗り込むには勇気が必要であったし、たった1泊2日であっても温かい場所から離れたことで、いかに自分が日々家族に助けられているか、文明の恩恵にあずかっているかも実感できた。この手の感謝の気持ちはすぐに忘れてしまうので、定期的に山に入って自分の小ささを知り、ありがたさを忘れないようにしたい。