西稜クラックとキャメロット4番

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堡塁岩の西稜クラックを登っていたら、中間部にセットしたキャメロット4番が回収できなくなり、あえなく残置してしまいました。1週間後、再び訪れてどうにか回収しました。その記録です。

カム残置(2023-04-09)

今シーズン初の堡塁岩。中央稜には別パーティーの声が聞こえたため、久しぶり(10年ぶりくらい)に、西稜に向かいました。装備を整えて、西稜クラックに取り付きました。履き慣れないクライミングシューズを持ってきてしまい、足が痛いなあと思いながら、3つ目のプロテクションとしてキャメロット4番をタイト目にセットしました。やはり足が痛いので、仕切り直そうと、4番にテンションをかけ、一度降りることにしました。

靴を脱いでまた履いて、登り直します。先ほどの4番にクリップ、さらに1m上に3番をセットしました。ハングを乗越す前に4番を回収しておくか、とトリガーを引くも外れません。何度か動かしていたら、奥に進んでいよいよ微動だにしなくなり、そんなことをしていたら疲れてパンプしてきたのでテンション。少し休んで、いったんトップアウトして降りました。

▲西稜クラック

再度登り、4番の上にセットした3番にぶら下がった状態で、スタックした4番の回収を試みます。こんなときは、カムローブを横から叩いて上下方向にスライドさせると、クラックの幅が変わって動きやすくなることを経験的に知っています。ただ、叩くためのハンマーを持って来ていません。

キャメロット1番を投げつけるようにして打撃してみるものの、4番ともなるとちょっとやそっとでは動かず、あきらめムードが漂います。心の中で悪態をつきます(ぶつぶつしゃべっていたかも)。

もう一度下降し、水筒の水を飲んでいたら「これだ」とひらめきました。この、水が入っているアルミ合金製の水筒を、水の重さで叩きつければハンマーの代わりになるのではないかと。三度目の正直で、お馴染みの4番にアクセスします。

▲身動きできなくなったキャメロット4番

水筒打撃は有効に作用して上下方向にスライドしたかと思いきや、水筒自体が大きいのでクラック奥のカムを上手く叩けません。力を伝えるため、アッセンダーの端をカムに当て、アッセンダーのもう一端を水筒で叩いてみます。ノミで化石を掘り出す発掘者のように。

力が伝わっているような、いないような様子で、カムの位置にさしたる変化はありません。水筒がボコボコに凹んだだけでした。結局この日は諦めて、4番のカムを残置したまま撤収しました。

帰宅後、妻にボコボコに凹んだ水筒を発見され、問い詰められてしまいました。自分のものだと思い込んで愛用していたこの水筒は、妻の所有でした。かたわらで事の次第を聞いていたRK(娘、9歳)は「お父さんが 水とうをハンマーにした!」と何やらニヤニヤしていました。

カム回収(2023-04-16)

カム残置から2週間後の土曜日、7時半に西稜クラックを再訪します。もしや誰かが回収してくれていたのでは、と期待を込めつつ西稜の頭にロープフィックスして、グリグリで懸垂下降しすると、僕が残置したままの状態でキャメロット4番が鎮座しておりました。

今回はきちんとしたバールとハンマーを持参したので、バールで叩いてスライドさせればすぐ外れるだろうと高をくくっていました。期待して叩き続けるも、なかなか外れません。しつこく打撃して1対のカムローブが岩から外れたものの、もう1対のカムローブががっちり食い込んで動きません。叩けば叩くほどカムは奥に進んでいき、またもや、しっかり2対のカムローブがスタックしてしまいました。

ここまで手こずるとは…。もう、回収するにはカムを壊すしかないな、と考えます。バールの先端をカムローブの間にねじ込んで、テコでこじります。4番サイズとなればかなり頑丈で、カムローブが若干曲がりはするけれど壊れません。ねじって、打撃して、こじって、叩き込んで、30分程あれこれしてやっと、1枚のカムローブが壊れました。

▲バールでこじる

カムローブ4枚のうち1枚がなくなったことで、だいぶカムが動くようになりました。それでも、パズルみたいで、なかなかクラックの外には出てこず、15分程ガチャガチャもがきました。いい加減、ハーネスにぶら下がっているのが辛くなってきた頃、ついに、すぽっと外れました。不思議な達成感。カムを残置したままにならなくてよかったです。

▲やっと外れた!
▲壊れたカムと、ベコベコになった水筒

回収不能になった要因

回収不能になってしまった要因として思い当たることを挙げておきます。

  • カムが外れてしまうことを恐れて過度にタイトなセットをしてしまう
  • クライミングに余裕がなく、セットに目一杯で回収のことを考えられていない
  • 登っている最中にテンションをかけたり、回収時にがちゃがちゃしてしまったりで、カムが動いてタイトになってしまう

カムをセットするときに余裕がない、というのが一番の要因な気がします。余裕がないのは、クライミングの力が低下しているのが原因です。鍛えねば。

あるいは、壊れたキャメロット4番は、僕たちが岩場で出会うさまざまな困難や過ち、そして成長を象徴するものだったのかもしれません。と謎な感じで締めくくります。