鷹巣崖 タケミカヅチ

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その洞窟は遠くからは見えず、岩場の基部に近づいてやっと存在に気付いた。誘われるように近づくと、壁の奥から天井に沿って一条のクラックが伸びていた。圧巻のルーフクラックだ。僕にはとても登れそうにないなと思いつつも、何度かトライはしてみた。しかし何度トライしても、天井がフィスト(握りこぶし)サイズ以上に広くなると、その先に進めなかった。進む技術も勇気もなかった。

▲洞窟とクラック

片手でジャミングできない広いサイズのクラックは「ワイドクラック」と呼ばれ、両手を重ねてジャミングしたり、頭より高い位置に足を突っ込んでスタックさせたりといった特殊な技術が必要となる。素晴らしいクラックがあるというのに、技術を持たない僕では何年かかっても登れない。余りにもったいない。

▲途中敗退

そんなとき、1枚の写真をきっかけに、ワイドクラックに並々ならぬ情熱を注ぐ青年Suzさんと出会った。2025年2月16日、Suzさんと2人で鷹巣崖に分け入り、ルーフクラックに向かった。見ても聞いてもどうなっているかよく分からない足先行ムーブを繰り出すSuzさんがこのクラックを初登してくださった。

洞窟の天井から空へと続く岩の切れ目は、クライマーが登ることのできるクラックルートへと概念を変えた。登った時間こそ10分に満たないものながら、その背後には、彼が国内外のワイドクラックを巡って技術を培うために投じたであろう膨大な時間を感じた。

▲足先行ムーブのSuzさん
  • ルート名: タケミカヅチ
  • グレード: 5.11a〜5.11b(暫定)
  • 場所: 鷹巣崖(兵庫県高砂市)
  • 終了点: 洞窟から出て数m上がった木に残置スリング+カラビナ。ロープの流れが悪いので、ルーフ部分はエイドダウンでの回収が無難。

ちなみに、僕には足先行ムーブができない代わりに、バックアンドフットでじわじわと進む方法に希望が見えてきた。なんと今回、部分的なエイドを交えて、はじめてトップアウトできた。誰かが成し遂げたという事実は、周りの人にも伝染する。人類の進歩の縮図のようだ。

▲抜け口で途方に暮れる僕