古法華 血と汗 (2019-02-01)

最終更新日

はじめに

古法華(ふるぼっけ)自然公園は兵庫県加西市にある。山陽自動車道の加古川北ICから北へ車で15分程。1998年発行のRock & Snow 1号でトポが公開された比較的新しい岩場だ(※1)。公園内の東の端にある駐車場から徒歩1分の広場には馬蹄形の石切り場跡が屹立し、いくつものボルトルートが拓かれている。岩は凝灰岩質で軟らかい。

メインエリア左手のスラブ手前から左の林に入り、踏み跡を5分程進むと、木立の奥にひっそりと佇む15m程の薄被りクラックがある。ルート名は「血と汗」。日本100岩場(東海・関西)の最後の方に写真付きで掲載され、グレードは5.11b/cとされている。僕は、2019年1月6日に初めてトライして以来、すっかりこのクラックに魅了されてしまった。

会社の創立記念日で平日休みだったので、5歳の娘が幼稚園に行っている隙に、妻と2人でトライ。本日1回目、述べ4日、通算8回目にして登ることができた。

※1 古法華のクライミングエリアは2019年6月以降、アクセス禁止とされています。

▲「血と汗」へのアクセス
▲限界グレードに挑むときにいつも作成しているメモ

詳細

これまでに3日間、累計7トライし、プロテクションセットを含むムーブは既に固まっている。ノートにそれらを図解し、何度も何度も繰り返しイメージトレーニングしてきた。

本日1回目のフレッシュな状態で完登できなければ、回復を待って2回目にトライしたいところだが、それは幼稚園の迎え時間の関係で難しい。1回目で登り切ってしまいたい。そう思うと緊張感で気分が悪くなる。

心を落ち着かせるため、まずはメインエリアのスラブでアップする。ボルト2本の短いルートだが意外と難しく、5.10aくらいだろうか。体が暖まったかどうかあいまいなまま、林の中へ歩き「血と汗」に向き合う。

いつもは使いまわしているテーピングも、今日は新しく貼り直し、丁寧に手の甲を鎧う。使用するカムを順番にラッキングし、クライミングシューズの紐を締め、ハーネスにロープを結ぶ。精一杯伸ばした左手をシンハンドにねじ込んで離陸(以降ムーブについて記載していますのでオンサイト狙いの方はご注意ください)。

▲取付きから「血と汗」を見上げる

レイバック気味の体勢で右手を高く上げてハンド。左手をスライドさせてハンドが決まる位置に馴染ませる。壁は下部ほど傾斜がきついので、消耗してしまわないよう素早くプロテクションをセットする。

ハンドジャムで数手進んだら、最初の難関である広いクラック部分となる。4番サイズを決めたくなるものの、あとあと身動きしづらくなるので我慢。丁寧にジャミング箇所を探し、足を高く上げることを意識して広いクラックを越えてから、ハンドジャムポイントに到達してその上に0.5番を入れる。

▲広いクラックの部分

一番最初にトライしたときは、ここに至るまで何度テンションしA0したことか。慣れとは不思議なもので、今では余力を持ってレストできている。さてここからが核心だ。ワイドハンドで1手耐え、さらに上にハンド。1番をトリガー最大に引いた状態でバチ効きセットし、余り回復しないが気休めのレストで腕を振る。

やや左上するクラックはサイズを狭め、僕の厚い手でのジャミングを受け付けない。となるとフェイスムーブで誤魔化すしかない。右手をアンダー気味のハンドで支点にし、左手はクラックの縁をカチ持ちする。右足を高めにフットジャムすると左手がクラックの抜け口に届くので、そこをフィンガージャム気味に持ち、思い切って右手を高く上げて、意外な所にあるホールドを掴む。

ここから上、フェイス的になって岩が脆く、最後のプロテクションが足下になるので緊張感が高まる。顔の上あたりのクラックにプロテクションを取れば一安心だ(トライし始めの頃は、カムをセットしてもクリップできずに落ちていた)。

そこから2手くらいのシンハンドの後、パンプするフェイスを数手こなして終了点。終了点付近にはガバホールドも安定した足場もないので、スリングを掴んでクリップする。厳密な意味でレッドポイントと言えるか怪しいけれど、少なくともクラック部分は完登できた。前腕の芯に残る疲労感すら心地よい。

▲終了点にて

感想

クラッククライミングは本当に面白い。累計4回目のトライではトップロープでテンションかけずに登れたものの、その後リードすると、カムセットとクリップの動作、それに精神的なプレッシャーが加わって、3倍くらい難しく感じた。

「血と汗」は薄被りとはいえ前傾しているので、強度が高く1日に2~3回しかトライできなかった。それでも登る度に必要な筋力が自然と鍛えられて、体が強化されていくのが感じられた。このクラックは均一な広さではなく、拡がったり閉じたり様々なので、手のサイズに応じて最適なジャミングポイントが見つけられ、登り込むにつれてどんどん快適になっていった。

カムをセットすると安心するけれど、セットされたカムはムーブの妨げになる。邪魔にならないようにするには、なるべく小さいカムを、なるべく少なくセットすれば良いが、そうするとフォールしたときのリスクが高まる。その二律背反の中で、自分にとって最適な方法を考え抜いた先に答えが見つかるのだろう。

たった15m程のこのルートは、僕にとって大きな成長を与えてくれた偉大な壁であった。一連のトライに付き合ってくださった方々、このルートを見つけた初登者、偉大な自然に感謝します。

▲「血と汗」取付きにて
▲プロテクション一式(左から順に使用)