宇無ノ川・釈迦ヶ岳 (2020-08-11〜12)

最終更新日

宇無ノ川を遡行して七面山南壁のアプローチを偵察し、翌日、稜線に抜けて釈迦ヶ岳を経由して下山した。ここは、2019年11月に行こうとして、林道で転倒して肋骨を負傷した上、全然違う沢を詰めてしまった苦い思い出の地だ。肋骨はその後2ヶ月くらい痛かった。今回は概ね予定どおり山行できたものの、沢から稜線に抜けるルートで迷い、かなり遅い下山になってしまった。

メンバー

崎間(単独)

行程

  • 2020-08-11(火)
    04:20 高砂市
    08:00/08:10 駐車スペース
    09:30 林道終点
    09:45 宇無ノ川入渓
    12:30/14:00 七面沢出合(ツエルト設営)
    15:30 Long Hope取付
    16:30 七面沢出合
  • 2020-08-12(水)
    05:10 七面沢出合
    06:30 迷い込んだルンゼ
    08:30 尾根上で進退窮まる
    10:30 予定していた谷に合流
    13:30 楊枝ノ宿小屋
    15:30 孔雀岳
    16:50 釈迦ヶ岳
    18:40 太尾登山口
    22:10 駐車スペース
  • 2020-08-13(木)
    03:30 高砂市

詳細

(1) 宇無ノ川遡行

まずは2時間弱の林道歩き。昨年は入渓地点を迷ってしまったので、今回は慎重に入渓地点を見定める。林道終点から直角に左へ曲がる尾根を下ると、広い川幅の河原に到着する。どうやら今度こそ宇無ノ川に間違いなさそうだ。遡行開始。

▲林道終点。打ち捨てられたワイヤー類が目印
▲宇無ノ川の遡行を開始する

膝下くらいまで水流に浸かり、ジャブジャブと歩く。とても透明の高いエメラルドグリーンの淵にはたくさんの魚が泳いでいる。深そうな釜を持つ二段の滝の前に来ると、なんだかとても恐ろしい気持ちになる。人里離れた沢で単独だからなのか、今にも雨が降り出しそうな天気に恐れをなしているからなのか。いずれにしろ、この滝を登ろうという気はないので、右岸を高巻く。

▲川幅が広く穏やかな宇無ノ川
▲二段の滝

河原と沢を交互に歩いていると、途中から雨が降り出し、本降りとなる。広葉樹の下で一休みして、昼食のおにぎりを食べる。ここはインターネットの情報網から隔絶された世界なので、天候の最新情報は入手できないものの、朝の予想では午前中が霧のち晴れ、午後から晴れとのことだったので、これは霧の一環としての雨なのだろうと解釈。午後から晴れることを期待し歩みを進める。

やがて、河原の向こうに七面山南壁が圧倒的に屹立しているのがみえると、どうしようもなく心が踊る。この感動は、前回の偵察が完全に失敗に終わったからこそだ。そう思えば、失敗するのも悪くない。

▲水面に雨の跡
▲唯一泳いだ釜(高巻きも可能)
▲そびえる七面山南壁

片口谷出合を過ぎると水量は減り、頻繁に見かけていた渓魚は姿を消し、代わりに蛙をたくさん見かけるようになる。

ゴロゴロした岩の上を歩いているうちに、本日のキャンプ地となる七面沢出合らしき場所に到着する。この辺りは伏流となっている。ここまで入渓から約3時間。少し登った辺りにある滝で水を汲み、ツエルトを張り、薪となる流木や枯れ木を集めておく。

▲七面沢出合

(2) Long Hope取付き偵察

泊まりの準備を終えたら、七面山南壁にフリー化されたルートLong Hopeの取付き偵察に向かう。開拓者の記録によると、目印の赤テープを追って行けばよいとのこと。確かに赤テープはあり、入口は明瞭だ。しかし、踏み跡はなく、登るにつれてブッシュが多くなり、倒木によって赤テープの数も少なくなっている。

無名滝の辺り(標高1000〜1050m)が特によく分からず、行ったり来たりしてしまう。無名滝の左岸を大きく高巻く感じで南壁に向かって、うっすらとした尾根を詰めるのが正解のようだ。

▲Long Hope取付きへの入口
▲よく分からない地形で迷う
▲うっすらとした尾根(?)に赤テープの目印あり

まばらな赤テープを追い、山屋的直観でルートを補正しながら、ようやく岩小屋に到着。物干しロープのようなものと、掃除道具、缶詰が残置されている。この岩小屋から壁に沿って左にトラバースしてやや下ると、Long Hopeの取付に到着した。

途中迷ったとはいえ、七面沢出合から取付まで90分かかった。トポには50分となっているけれど、迷わなくても、この踏みならされていない急登を50分で登るのは至難の業だと思う。

▲右の岩小屋
▲Long Hope取付
▲左の岩小屋

取付からLong Hopeを見上げると、遥か彼方までルートが続いている。壮大な壁だ。取付に来るだけでほぼ丸一日を要した。この壁を開拓・整備するにはどれほどのモチベーションが必要なのだろうか。偉大なクライマー達に尊敬の念を抱かざるを得ない。

(3) 沢中泊

取付から下ること1時間で七面沢出合に戻る。帰る途中、ツエルトの黄色が視界に入るとほっとした。掘っ立て小屋もいいとろこだけど、我が家があるのはありがたい。時刻は16時半。

汗だくの服をそこらに干し、焚火の準備に取り掛かる。今回初使用となる折りたたみ式ノコギリはコンパクトで刃の長さがちょうどいいし、切れ味も良く、準備がはかどる(ちょっと重いけど)。

▲焚火の準備

塩ラーメンに駄菓子のビッグカツを入れただけの簡単な夕食を終え、夜のとばりにつつまれる七面山南壁を眺めながら、沢の水で割ったカティサークを飲む。焚火は元気に燃えている。とても素晴らしい時間。火を操れることこそが人類の力だよなと勝手に感慨にふける。このときまでは良かった。

▲七面山南壁を望む最高のロケーションで夜は更けてゆく

21時頃、さて寝ようかとシュラフカバーに包まり目を閉じると、ヤブ蚊の音が耳元にまとわりついて眠れない。くすぶった焚火を枕元に移動して煙でいぶしたり、シュラルカバーに潜ってヤブ蚊の侵入を防いだり、様々な努力を講じたものの効果は薄く、一晩中不快な羽音に悩まされて、全く熟睡できない。蒸し暑さがさらに不快感に拍車をかける。熟睡できずとも、横になっているだけで体力は回復するだろうと期待を込め、頑張って一夜を過ごす。

(4) 七面沢出合から楊枝ノ宿小屋

2日目は、七面沢出合から沢沿いに稜線(奥駆道)の楊枝ノ宿小屋へ抜け、そのまま奥駆道を南下して釈迦ヶ岳を越えて太尾登山口に下山、林道を歩いて入山地点に置いた車まで戻る計画だ。

楊枝ノ宿小屋から七面沢出合は、下降路としてトポに紹介されており、時間は60分とある。それなら上りは120分程度かなと高をくくっていたのが甘かった。ここは登山道では全然ないし、踏み跡も全くない。

こともあろうか、初っ端から詰めるべき沢を間違えてしまい5時間のロス、どうにか目的の沢に合流したものの、その上も不明瞭だしガレガレだしで、稜線に抜けるまで3時間以上かかった。朝5時にスタートしたというのに、稜線にある楊枝ノ宿小屋へ着いたのは13時半。

Long Hopeから七面山に抜けたのち、七面沢出合に戻るための最も確実なルートとされているこの沢だけれど、初見で下り1時間というのは、相当な熟達者での時間ではないか。沢登りやヤブ漕ぎに慣れていないと、下手したら遭難してしまうかもしれない。

大峰の山は地形図に記載のない岩壁が至るところにあるようで、単に尾根を詰めれば稜線に抜けられるというわけでもない。実際、僕は今回間違った谷から尾根に無理やり登るとしたら、岩壁に行く手を阻まれた。そういった点では、トポに記載のあるこのルートはとても合理的だ。ただ、ルートファインディングがかなり難しいし、標高差600mもあるので、2時間で下れれば大したものだろう。

▲このルンゼで間違いに気づいた
▲どうにかこうにか、予定の谷に合流
▲大きい谷から楊枝ノ宿小屋へ続く谷に分岐したあたり(標高1250m付近)
▲谷の上部は判然としない沢地形
▲立派な楊枝ノ宿小屋

(5) 奥駈道から下山

登山道のなんと歩きやすいことか。多くの人々によって踏み固められた安心感に浸りながら、日没までには登山口まで行きたいと早足で進む。というのは気持ちだけで、沢を散々迷ってしまった影響で体力の消耗が激しく、少しでも登りになるとペースはガタ落ち。情けない。

家族に渡した山行届では正午前に下山予定だったので、心配しているかも知れない。稜線であればかろうじて電波が繋がるので、LINEで連絡を入れおく。なんとか連絡がとれて一安心する。

問題は、水の残りが少ないこと。七面沢出合でもっと汲んでおけば良かったのだけれど、完全に見積が甘かった。奥駆道に何ヶ所かある水場はすべて枯れている。幸い、天気は曇りで日差しがなく、風も強くて涼しいことが救いだ。

夕方だからか、やたらと鹿をみかける。丸い笹原の高原に、ひとときは30頭ほどの鹿が笹を食み、僕の姿を見かけてピィィと高い声の合図とともに一斉に遠くへ駆けていく。鹿は山の中に住み、水と食料を得ている。一方でぼくは水も食料も尽き、体内に残された備蓄でなんとか下界へと逃げ切ろうとしている。野生生物として、人間は余りに不完全だ。

▲奥駆道から七面山方面を振返る
▲夕暮れが迫る。残業決定

太尾登山口には18:40に下山。ぎりぎり日没まえだ。これからは舗装された林道を重力にまかせて標高差600m下るだけなので暗くなっても大丈夫だろうと、無心になって歩く、歩く。

完全に日が落ちて真っ暗な林道では、ヘッドランプだけが頼りだ。現在地確認もままならないので、スマホ(XPERIA Z5)で位置を調べるも、GPS信号が捕捉できない。スマホの性能のせいなのか、樹林帯のなかの林道で信号が届きにくいのか分からない。腕時計の高度計を頼りに進む。

車を置いた場所は標高720m辺りで、明確な分岐点があったので、近くを通ればまず迷うことはないだろう。そう思っていた。高度計の表示が800m、750mと低くなると、いよいよこの山行も終わる、車に置いていた水をたっぷり飲めると期待が高まる。しかし、表示が700mを切り、650m、600mとなってもまだ分岐は現れない。

もしかしてまた間違ってしまったのか。分岐を見落とすなんて。前方にトンネル跡と、さらに向こうには人工物の窓から灯りがもれている。これは奥吉野発電所に間違いない。完全に駐車スペースへの分岐を通り過ぎているではないか。

自分の迂闊さに心底がっかりする。本当、なんなんだよ自分。時刻は21時を回っている。最後に水を飲んだのはいつだっただろうか。ザックをそこらに置き、スマホと車の鍵とヘッデンだけもって、下ってきた林道を登り返す。途中見つけた沢で水をがぶ飲みし、標高差150m程を登り返す。分岐はまだ出てこない。もして、間違いではなく、さっきザックを置いた所より下に分岐があるのでは。もう何も信じられないと疑心暗鬼にかられたとき、あった、昨日の朝みた分岐の看板。ようやく車に到着したのは、今朝の行動開始から17時間が経っていた。

▲時刻22:10、疲労困憊で車にたどり着く

感想

どうにか目的を達成できたものの、反省点ばかりの山行だった。七面沢のルンゼを無理して登り、滑落したらどうなっていただろうか。上部の尾根から引返す途中で腐った灌木と浮いた岩ごと谷に落ちれば、誰にも知られない場所で身動きとれなくなる可能性が大いにあった。

帰宅後、遭難対策のため、ココヘリに加入し、GARMINのGPS端末を購入した。

大峰の沢と山は深い。七面山南壁を登るには半端な準備では太刀打ちできない。なんにせよ、しっかり偵察して困難さを肌で感じられたことは、自分にとって大きな糧になったと信じたい。