クライミング時の衝撃力(1) 懸垂下降と登り返し

最終更新日

はじめに

Raspberry Pi Pico(以降Pico)と中華製の格安ロードセルで組んだ計装化クイックドロー(製作記事はこちら)を用いて、クライミング時に発生する力を計測していきます。まずは実験しやすくて、かつ、あまり実測データを見たことがないものということで、懸垂下降時と登り返し時の荷重を計測してみました。

実験条件

装置構成は図1のようになっています。自宅2階のベランダの手すりに60cmスリングを2本巻き付けて、ロードセル(計装化クイックドロー)の上部を固定しました。ロードセルの下部には、ダイナミックロープをラビットノットで固定しています。懸垂下降するだけならロープを通すだけでいいのですが、懸垂下降した後に登り返しのデータも計測するため、ロープを固定しています。ロープにアクセスしやすくするため、隣にアブミも設置しました。

▲図1 装置構成

この際、計装化クイックドローのロードセルにベランダの壁面角部が接触しないよう注意する必要がありました。最初は、手すりから垂らしたスリングが短く、手すりの下の壁面角部にロードセルが当たってしまって、テコによって変な方向に力が加わっていました。

以下の条件で荷重を計測しました。

  • ロープ:9.7mmダイナミックロープ(ベアール ブースターIII)
  • 計測条件:懸垂下降、登り返し
  • 荷重サンプリング周波数:80Hz
  • 繰返し数:各3回
  • クライマーの体重:約75kg(ギア含む)
  • 下降距離:約3m

実験結果

(1) 懸垂下降

計測結果を時系列で整理したものを図2に示します。ゆっくりと懸垂下降したとき(灰色プロット)は、ほぼ自重のみ(0.7〜0.8kN)が支点に荷重されました。

しかし、アクション映画のようにビョンビョンと反動をつけた場合は、赤色プロットのように、最大で自重の3倍弱の力(2kN弱)が加わりました。

▲図2 懸垂下降時の荷重

怪しい支点で懸垂下降するときは、できるかぎりそろそろと、反動をつけずに下るのが良さそうです。

(2) 登り返し

アッセンダーとグリグリで登り返す、いわゆるグリマリングで登り返す場合の荷重を時系列で整理した結果は図3のようになりました。最大荷重は約1.2kNで、これは、反動付き懸垂下降時の最大荷重に比べて小さいです。

▲図3 登り返し時の荷重

ユマーリング時は、以下の①から④を繰り返します。

①グリグリにロープをロックしてぶら下がる。
②アッセンダーを上にスライドさせる。
③アッセンダーに連結したフットテープに乗り込む。
④③で体が浮いた瞬間にロープを引き付ける。

最も荷重が大きくなるのは③のときかと思っていましたが、実際には④→①に切り替わるときでした。

③のときはどうしても、エイヤっと瞬発的に力を加えないと乗り込めないのですが、④→①はある程度、ソフトな動作にすることはできるので、支点強度が心配な場合は、この点に気を付ければ、最大荷重をもう少し押さえられそうです。

考察

計装化クイックドローに固定したロープにぶら下がってじっとしているときには、当然ながら自重のみの力が加わります。この力は、自分自身の重さ(質量)に比例して地球から引かれる「万有引力」から生まれています。ひき合う孤独の力によって、僕らは地球に引かれています。

懸垂下降でも登り返しでも、自重以上の力が発生しています。この力はどこから生まれたのかというのは、運動方程式 F = ma(F:力、m:質量、a:加速度)から説明できます。すなわち、加速度があることで、質量に応じた力が発生します。加速度というのは、速度が変わる速度とでもいいましょうか、速度が変化する割合です。

シュルシュルと落ちている状態から「急に」止まるときや、止まっている状態から「急に」動き出すときは、速度の変化割合が大きいので、加速度が大きい、つまりは発生する力も大きいということになります。要は、急発進や急ブレーキは、余計な力を発生させてしまうということです。