懸垂下降の登り返し
はじめに
岩場を下降する技術といえば懸垂下降。ラペルとも呼ばれます。順調に地上もしくは次のビレイ点まで下降できればいいのですが、もしも、下降している途中でロープが下まで届かないことが分かったり、下降したもののロープを引いても回収できなくなってしまったらどうしましょう。はい、登り返して適切な処置をするのが順当な方法です(回収を諦めるという選択肢も場合によってはあり得ます)。
通常、懸垂下降するときには、あとからロープを引いて回収できるように、支点から折り返した2本のロープをビレイデバイス(ATCやエイト環など)に通した状態になっています。2本のロープを登り返すというのは、けっこうコツが要ります。登り返しが必要になるときは、切羽詰まっている状態である場合が多いので、あらかじめ方法を知って練習しておくことが大切であると思います。
僕は、セルフレスキュー講習会などで、固定されたシングルロープを登り返すことは何度か教わったことがありました。しかし、実践で本当に必要なダブルロープ状態(通常の懸垂下降状態)を登り返す方法は、不思議と教わった経験がありませんでした。実際のクライミング時に、何度か痛い目にあった経験から得たノウハウを記載します。
装備
懸垂下降の登り返しに最低限必要なもの:
- プルージックコード 60cm or スリング 60cm(できれば2セット。懸垂下降時のバックアップに1つ、登り返し用に1つ)
- セカンドビレイ可能なビレイデバイス(ATCガイドやルベルソなど)
- スリング 120cm or フットテープ
方法
- 登り返しの必要性を感じたら、懸垂下降の途中で停止します。両足で立てる場所が楽ですが、空中懸垂の場合はロープを仮固定して、手を離してもロープが流れない状態にしておきます。
- フリクションノットをビレイデバイスよりも上に設置して、そちらにセルフビレイをとり、荷重を移します(ビレイデバイスから荷重を抜くため)。
- ビレイデバイスから一旦ロープを外し、セカンドモードでセットし直します。ビレイデバイス側のロープをたぐってテンションを掛け、セルフロックされることを確認します。
- ビレイデバイスの上に設置したフリクションノットにスリング120cm(もしあればフットテープ)を連結して、片足を掛けます。できるだけ上にフリクションノットをスライドさせてから、そこに連結したスリングに立ち込みます。
- 立ち込んだと同時に、ビレイデバイスのロープを2本同時に引きます(ちょっと力が必要です)。荷重をかけると(立ち込みをやめると)セルフロックされるので、手足の力を抜き、瞬間的に休みます。
- 4と5を繰り返し、尺取虫のごとく登り返します。距離が長いと絶望感を覚えますが、地道に繰り返すしかありません。
注意点
- 上記の方法が常にベストではないので、自分にとってやりやすく、忘れにくく、確実な手順を身に付けるのが大事だと思います。
- とにかく装備がないとどうにもならないので、懸垂下降するときにはスリングや環付きカラビナを十分な量持っておくことが大切です。
- 空中懸垂でビレイデバイスから荷重を抜いてフリクションノットのみでぶら下がるのは、けっこう怖いです。
- フリクションノットをスライドさせて立ち込むとき、ノット部分を手で握ったままだと摩擦が効かないので、立ち込むときにはノットの上か下のロープを握るようにします。